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制作について

安部典子

「アーティストステートメント2013」

時間は私の作品にとって重要な要素だ。それはより多くの紙を彫刻に足していくという、とても時間の掛かる作業であり、その作品は最終的に、制作に掛かった時間を具体化することになる。

「カラッポの自分」という視点に気付いてから、線を使った作品を作りつづけている。"Works of Linear-Actions"と題された1999年から始まった作品シリーズは、ある種の地図を形作っているように見える。例えば木の年輪のように、または波のように、紙の上にドローイングの線を引いていく/カットした層を積み上げていく。物理的かつ感情的ミステリアスな地形が形作られて行く。

それはシンプルな行為ではあるけれども、微妙に歪む線をそのまま受け入れ、それに沿って次の線を引いて/カットていく。そこに現れるゆったりとしたフォルム、それが人間の感情の機微、くせ、またその人のバイオリズムそのものであり、それこそがオリジナリティとなり得るのであろう。1999年以降作品は、すべてフリーハンドになった。

線を引く、カットしていくとき、徐々に変化し続ける形はとても興味深い。このダイナミックな形それ自体が“アナザージオグラフィー”といえるのではないか。私にとって(カットされた)線とは、ネガとポジを分かち、静かに統率する宇宙の秩序を自分の中に写し取る行為;個という部分と自然の一部としての人間、さらに我々を取り巻く自然界とを繋ぐ、重要なモチーフである。

“Book Cuttings”シリーズは、いわば、作品とのコラボレーションとして素材と自分との関係を捉えている。本というメディアの既存の情報にカッティングを加えることにより、新たなコンセプトを表現していく。または施した行為は同じでも、本に書かれたものが変われば自ずと受け取られ方は違って来る。それはあたかも私達が時と場所、民族性によって価値を与えられてしまう不自由さにも重なってゆく。その点でも興味深い素材である。さらに2009年以来“キル-Artist Books”として、先達のアーティストへのリスペクトを込め、それを切り抜いて彫刻にしていくシリーズが始まった。自分自身を'フィルター'として、彼らのコンセプトを理解し交差又は衝突しうる点を探り、作品化させていく。「アートとは何か」ということをアーティスト(他者)から考察しようとする試みである。

また、2006年の個展より始まった“フラットファイル・グローブ”という、引き出し付きのスチールキャビネットを使った彫刻のシリーズがある。縦につながる穴、それは人間の体、また、それぞれの引き出しとの関係は、連続した時間の流れと現在がクロスするメタファーとしてシンクロしているのではないか。工業製品と、有機的なカッティングの線のコラボレーションである。さらに、切り抜いた形も使うようになった。題して”スカルペーパー(Sculpaper)”。作品は日々増殖していく。

2012年以降取り組み始めた“内なる水”と名付けられた作品は、紙の積層の作品と共に、大形のビデオ映像を写し出したサイトスペシフィックなインスタレーションである。それは2011年の東日本大震災に由来し、人間と自然の驚異を反映している。海の中では人間(人体)は息をすることすら出来ない、すぐに死んでしまう対極の存在のようだ。しかし、それと同時に、その先のさらに奥に在るものに思いを馳せ、我々の中に眠る深い無意識の領域のようなところをイメージさせると、”波の襞”はそうした存在とシンクロしているかのように、我々にその深い記憶を想起させ得るのではないか。

波を撮影した約2500枚から約660枚の写真を選び、スライドショウとして、多層の大形スクリーンに投影していく。現在と過去、そして個人の中にイメージされる時間がインスタレーションの中で刻々と交差する。繰り返される時間、その先に何を観るのか。現時点において表現され得るものを、これからも追随して行きたい。

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