ウォーホル ”フラワーズ” へのオマージュと本展の構成 2024年
個展 "STATE OF FLOW: ANDY WARHOL "FLOWERS", LEO CASTELLI, 1964
Nov. 12, 2024 − January 17, 2025
本展は、アンディ・ウォーホルが1964年にレオ・キャステリ・ギャラリーで発表した「Flowers」展の60周年を記念するオマージュとして企画された。当初、オーナーであるバーバラ・キャステリ氏から趣旨を聞いていたが、私が個展として関与することになるとは予期せぬ展開であった。
本展の構成にあたっては、以下の三点を柱とした。第一に、ウォーホルの象徴的手法である「複製」を用いた作品の制作、第二に、1964年のオリジナル・インスタレーションを手がかりとした展示構成、第三に、私自身の解釈を反映した彫刻作品の提示である。
まず「複製」の手法として、ギャラリーのウェブサイトアーカイブから白黒画像を参考に、オリジナルの24作品を4種類のグレートーンに分類し、5、10、15、20枚のユポ紙をその明度の違いによって割り振り、開けられた穴の層の深さをオリジナルのグレートーンに置き換えた。鏡のようにセンターで左右対称に48点に複製。互いに反映し合うことで、フラワーの無限の繰り返しを表現した。各花のアウトラインに沿ってそれぞれ複雑にカットし、鏡像のように反復するその形は、反転して中空の存在(空虚のような存在)へと変容する。
展示構成として、1964年当時のインスタレーションを元に正面壁に48点の『フラワーズ』を配置し、窓際には大型フラワーペインティングに対応する(ポジティブな形の)4点のバルーンを設置、さらに試行錯誤を経て、本のカッティング作品を含む展示構成へと発展させていった。
本展のリサーチでは、ポップアート関連の文献やウォーホル自身の著作である「僕の哲学」、当時の論評、過去に収集していたカタログ・サブカル雑誌に加え、近年の展覧会レビューや実物の鑑賞、ウォーホルに造詣の深い方々へのインタビューを通じて、彼の思想や背景を私の中に蓄積させていった。
ウォーホル『フラワーズ』シリーズのもう一つの背景として、1964年のニューヨーク万国博覧会における『13人の最重要指名手配犯』シリーズとの関連*を鑑み、本展ではその関係を、本を媒体としたカッティング作品によって併せて制作し、政治的検閲と美術表現の表裏を具現化させることを試みている。
*「13人の最重要指名手配犯」は、ニューヨーク市警察が配布した小冊子からシルクスクリーンで拡大されたマグショットの集合体で、予想通りの論争を巻き起こし作品はフェアの開幕前に検閲され、最初に銀色の塗料で覆われ、数か月後に黒い布で覆われた。彼は「フラワーズ」にも「最重要指名手配犯」の個々のパネルと同じ正方形のフォーマットを使用。そして、最初のコラージュ版の「フラワーズ」の画像を印刷業者に送り、白黒の複製(シルクスクリーン製作の最初のステップ)に変換してもらう際、彼はその余白に次のようなメッセージを走り書きした;「ゴールデンさん、黒と白の線で作ってください。私の『13人の最重要指名手配犯』のようにしてください。」
ウォーホルと1960年代のアートシーン
1960年代はベトナム戦争や学生運動など社会的動乱の時代であり、アート界では抽象表現主義が主流であった。デザイン畑出身のウォーホルは、当時の美術界に対しての屈折した反逆心はあったのではないかと推察される。広告からの複製から始まった「フラワーズ」のモチーフがディティールを失い抽象形態と結びついたことで、レジェンド的存在のレオ・キャステリギャラリーに受け入れられたという出来事は、非常に象徴的である。
彼の作品は政治的要素が薄いとされがちだが、ジョン・F・ケネディ暗殺事件後に制作した白いフラワーによるコラージュやジャクリーン・ケネディの肖像、マリリン・モンローの死後から始まるポートレイト作品群には、社会批評的な視点が込められていたと考えられる。本展では、例えば「Gun Shot」では、フラワーの切り抜きを弾丸の発射方向として配置することで、暴力と美の共存を示唆し、ウォーホルが表層に表現したこの関係性に加え、作品が内包する政治性をも映し出す表現を目指した。
さらに、ウォーホルは複製と反復の方法から発展し、長編映像などを通じて無名の対象を記録し続けた。彼が日本美術に関心を寄せていたことから「無」の概念に興味を持っていたのではないかと推察する。今回ネガティブなフラワーの形を用いた表現へと至った一因である。
本展は、ウォーホルの「フラワーズ」を単なる”再現”ではなく、私自身の表現手法を通じて現代的視点から再解釈するものである。カッティングやネガティブな形を用いることで、ウォーホル作品の表層的美と暴力の共存から政治的示唆を浮かび上がらせ、存在感を反転させ、異なる視点からの解釈の提示を目指した。