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ジョナサン・グッドマン「安部典子展-ジョゼ・ビエンヴェヌ・ギャラリー、ニューヨーク」
レヴュー、スカルプチャー、2006年11月号

ジョナサン・グッドマン

展覧会レビュー、雑誌「スカルプチャー」 2006年11月号

 安部典子は埼玉県に生まれ、現在ニューヨークと東京を拠点に活動している。彼女のニューヨークで2度目となる個展「Flat Globe(平らな地球)」では、壁掛け作品、切り抜かれた本、さらに工業的な印象を与える金属製キャビネットが展示されており、その引き出しの中には、彼女が切り抜いた紙を収める為の半ば建築的とも言える空間が保たれている。エクザクトナイフを使用し、ユポと呼ばれる日本製の合成紙を何層にも渡って切り抜くことで、安部は自身のプロジェクトを最終形態、つまり精巧な地形に類似したものへと丹念に導いていく。


 それらの紙から、細長く隆起した丘や谷が出現する。ユポの半透明でオーガニックな触感は肌のような質感を与え、人間の体にも関連付けられる。安部の作品の全体的な印象は、逆説的に、デリケートであり、なおかつ強靭である、と言える。穴を空け、切り抜くというプロセスは、作品そのものの繊細なエネルギーに、より暴力的な解釈を加えている。


 展覧会のサブタイトルである「線を引く行為-Linear-Actions Cutting Project 2006」は、紙を切る行為そのものを示唆している。安部の3次元の地形は、ひと切りずつ、紙の表面を最小限に加減しながら切られた、何百枚という紙によって出来ている。ポジとネガの複雑な絡み合いによる空間は、ゆっくりと確かな手仕事を必要とする、増大した紙の層によって出来上がっている。


 美しい作品「Crack II(2006年)」では、安部はユポをランダムに切り抜いており、その結果出来上がった表面は、キャンバスをカットするイタリア人アーティスト、ルチオ・フォンタナを思い起こさせる。繊細さと暴力のコンビネーションは、薄いレリーフの中に著しい緊張感を生み出している。左下のカッティング作品は、美しい白い紙に入念に跡形を残すことで、その紙の中に宿る微細で透明な美しさを讃えている。しかしその作品の切り口と粗い部分は、昨今の安部の取り組みへの評価に対して、ある種の攻撃性を静かに認識させ、議論の余地を与えている。


 切られた紙と木材で作られた大作「Sculpaper」(2006年)において、安部は平らな長方形の台座の上に、山脈、もしくは島を構築している。1枚ずつカットされた紙が積み重ねられている。作家はそれに曲線のエッジを施し、抽象的な形というよりは、自然の地形を描写しているという印象を強調している。ここには、精力的な「Crack II」とは異なる、Sculpaperに表されるもうひとつの美学、つまり形作られた有機的自然と、工業製品の持つ理性的な長方形プラットフォームの狭間における緊張感がある。紙の放つ人工的な冷たい微光は、複雑さをも与えている。安部の技術的スキルは、2つの領域、すなわち自然界と、洗練、または文明化されたモチーフへと広がっている。


 相対的にシンプルな切られた紙、そのものに甘んじようとしない安部は、最近、彼女の生みだした環境を、フラットファイル棚に入れる様になったのだが、ここにおいて、スチール製の引き出しの付いたメタルキャビネットと衝突した。「Flat File Globe 3A」(2006年)では、7段の引き出しに切り抜いたユポを詰め、四角の領域に、直感的なアレンジが美しく対比されている。引き出しはそれぞれ違う長さに引き出され、鑑賞者はそれぞれの環境を見ることが出来る。とても繊細な作品というだけではなく、自然のタブローのような - 終わりのない谷や山々、水によって削られた岩の層 - 思いもかけなかったユーモアを引き出しに内包している。これらの最近作は、自然素材と工業製品のみならず、今後、インスパイアされた様々な分野への合併のきざしとなる、安部の今後の発展性を示している。

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